【オカルト】真冬の対先である海辺の寒村に差し掛かった。どの家も門を閉ざしていて軒先に籠や笊をぶら下げている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
544: 名無しのオカルト 2005/12/07(水) 00:34:03 ID:NZNHKwqA0
普段付き合いのいい同僚が、何故か海へ行くのだけは頑として断る。
訳を聞いたのだが余り話したくない様子なので、飲ませて無理やり聞き出した。
ここからは彼の語り。ただし、酔って取り留めのない話だったので、俺が整理してる。

まだ学生だった頃、友人と旅に出た。たしか後期試験の後だったから、真冬だな。
旅とは言っても、友人の愛犬と一緒にバンに乗って当てもなく走っていくだけの気楽なもんだ。
何日目だったか、ある海辺の寒村に差し掛かったころ既に日は暮れてしまっていた。
山が海に迫って、その合間にかろうじてへばり付いている様な小さな集落だ。
困ったことにガソリンの残量が心もとなくなっていた。
海岸沿いの一本道を走りながらGSを探すとすぐに見つかったのだが、店はすでに閉まっている。
とりあえず裏手に回ってみた。
玄関の庇から、大きな笊がぶら下がっている。
出入りに邪魔だな、と思いながらそれを掻き分けて呼び鈴を鳴らしてみた。
「すんませーん。ガソリン入れてもらえませんかー?」
わずかに人の気配がしたが、返事はない。
「シカトされとんのかね」
「なんかムカつくわ。もう一度押してみいや」
「すんませーん!」
しつこく呼びかけると玄関の灯りが点き、ガラス戸の向こうに人影が現れた。
「誰や?」
「ガソリン欲しいん…」
「今日は休みや」
オレが言い終える前に、苛立ったような声が返ってくる。
「いや、まぁそこを何とか…」
「あかん。今日はもう開けられん」
取り付く島もなかった。諦めて車に戻る。
「これだから田舎はアカン」
「しゃーないな。今日はここで寝よ。当てつけに明日の朝一でガス入れてこうや」
車を止められそうな所を探して集落をウロウロすると、GSだけでなく全ての商店や民家が門を閉ざしていることに気付いた。
よく見ると、どの家も軒先に籠や笊をぶら下げている。

引用元: ・死ぬ程洒落にならない怖い話しを集めてみない?116

オカ速おすすめ!

545: 名無しのオカルト 2005/12/07(水) 00:35:27 ID:NZNHKwqA0
「なんかの祭やろか?」
「それにしちゃ静かやな」
「風が強くてたまらん。お、あそこに止められんで」
そこは山腹の小さな神社から海に向かって真っ直ぐに伸びる石段の根元だった。
小さな駐車場だが、垣根があって海風がしのげそうだ。
鳥居の陰に車を止めると、辺りはもう真っ暗でやることもない。
オレたちはブツブツ言いながら、運転席で毛布に包まって眠りについた。

何時間経ったのか、犬の唸り声で目を覚ましたオレは、辺りの強烈な生臭さに気付いた。
犬は海の方に向かって牙を剥き出して唸り続けている。
普段は大人しい奴なのだが、いくら宥めても一向に落ち着こうとしない。
友人も起き出して闇の先に目を凝らした。
月明りに照らされた海は、先ほどまでとは違って、気味が悪いくらい凪いでいた。
コンクリートの殺風景な岸壁の縁に蠢くものが見える。
「なんや、アレ」
友人が掠れた声で囁いた。
「わからん」
それは最初、海から這い出してくる太いパイプか丸太のように見えた。
蛇のようにのたうちながらゆっくりと陸に上がっているようだったが、不思議なことに音はしなかった。
と言うより、そいつの体はモワモワとした黒い煙の塊のように見えたし、実体があったのかどうかも分からない。
その代わり、ウウ…というか、ウォォ…というか、形容し難い耳鳴りがずっと続いていた。そして先ほどからの生臭さは、吐き気を催すほどに酷くなっていた。
そいつの先端は海岸沿いの道を横切って向かいの家にまで到達しているのだが、もう一方はまだ海の中に消えている。
民家の軒先を覗き込むようにしているその先端には、はっきりとは見えなかったが明らかに顔のようなものがあった。
オレも友人もそんなに臆病な方ではなかったつもりだが、そいつの姿は、もう何と言うか「禍々しい」という言葉そのもので、一目見たときから体が強張って動かなかった。心臓を鷲掴みにされるってのは、ああいう感覚なんだろうな。
そいつは、軒に吊るした笊をジッと見つめている風だったが、やがてゆっくりと動き出して次の家へ向かった。
「おい、車出せっ」
友人の震える声で、ハッと我に返った。


546: 名無しのオカルト 2005/12/07(水) 00:36:01 ID:NZNHKwqA0
動かない腕を何とか上げてキーを回すと、静まり返った周囲にエンジン音が鳴り響いた。
そいつがゆっくりとこちらを振り向きかける。
(ヤバイっ)
何だか分からないが、目を合わせちゃいけない、と直感的に思った。
前だけを見つめ、アクセルを思い切り踏み込んで車を急発進させる。
後部座席で狂ったように吠え始めた犬が、「ヒュッ…」と喘息のような声を上げてドサリと倒れる気配がした。
「太郎っ!」
思わず振り返った友人が「ひぃっ」と息を呑んだまま固まった。
「阿呆っ!振り向くなっ!」
オレはもう無我夢中で友人の肩を掴んで前方に引き戻した。
向き直った友人の顔はくしゃくしゃに引き攣って、目の焦点が完全に飛んでいた。
恥ずかしい話だが、オレは得体の知れない恐怖に泣き叫びながらアクセルを踏み続けた。

それから、もと来た道をガス欠になるまで走り続けて峠を越えると、まんじりともせずに朝を迎えたのだが、友人は殆ど意識が混濁したまま近くの病院に入院し、一週間ほど高熱で寝込んだ。
回復した後も、その事について触れると激しく情緒不安定になってしまうので、振り返った彼が何を見たのか聞けず終いのまま、卒業してからは疎遠になってしまった。
犬の方は、激しく錯乱して誰彼かまわず咬みつくと思うと泡を吹いて倒れる繰り返しで、可哀そうだが安楽死させたらしい。
結局アレが何だったのかは分からないし、知りたくもないね。
ともかく、オレは海には近づかないよ。

以上が同僚の話。
昔読んだ柳田國男に、笊や目籠を魔除けに使う風習と、海を見ることを忌む日の話があったのを思い出したが、今手元にないので比較できない。


552: 名無しのオカルト 2005/12/07(水) 01:41:03 ID:RI2247y30
>>544-546
いつも山怖のほうでは楽しませてもらっています、NWさん乙です。

その後その村が津波に襲われてなければいいのですが・・・


547: 名無しのオカルト 2005/12/07(水) 00:44:36 ID:IhtIg/grO
GJ!
久々におもしろかったよ!


549: 名無しのオカルト 2005/12/07(水) 00:54:25 ID:hc7MjiGK0
コレは怖い
分もうまい


550: 名無しのオカルト 2005/12/07(水) 00:56:34 ID:G/8WdcERO
あんとく様か!
『海龍祭の夜』だったんだな。


551: 名無しのオカルト 2005/12/07(水) 01:15:28 ID:nGBdju5XO
それは実在する生物なの??


629: 名無しのオカルト 2005/12/07(水) 23:31:21 ID:NZNHKwqA0
俺はNWというコテの人とは違う。
先方の名誉のためにも、野暮は承知で一応ことわっておく。

俺が話を聞いたときに味わった気味悪さが、少しでも伝わってくれればいいのだが。


このエントリーをはてなブックマークに追加

オカルト速報特選!

PICKUP!

この記事へのコメント

 コメント一覧 (2)

    • 1. 名無しのオカルト
    • 2020年05月09日 18:18
    • これは何県何市で時期は
    • 0
      occlut_soku

      occlut_soku

      likedしました

      liked
    • 2. 名無しのオカルト
    • 2020年06月03日 03:03
    • 懐かしいー!これ思い出すと怖いけど夜の海にも行っちゃうな
    • 0
      occlut_soku

      occlut_soku

      likedしました

      liked

コメントする

コメントフォーム
記事の評価
  • リセット
  • リセット

ギャラリー
  • 【オカルト談義】まさか矢追純一と大槻教授のバトルで矢追純一が勝つとは思ってもいなかった
  • 【オカルト談義】本当は怖い?? スピリチュアル。あるスピリチュアル会社を調べたら出るわ出るわ……
  • 【オカルト談義】みんなが信じていたUMAの思い出『正体が虫って……』『蛇か猫か』『チュパカブラというネーミングセンス』
  • 【画像あり】昭和のオカルト・超常現象の思い出 『開運・強化グッズ』『Mr.マリック』『バミューダトライアングルの謎と真実』
  • 【画像あり】昭和のオカルト・超常現象の思い出 『開運・強化グッズ』『Mr.マリック』『バミューダトライアングルの謎と真実』
  • 【画像あり】昭和のオカルト・超常現象の思い出 『開運・強化グッズ』『Mr.マリック』『バミューダトライアングルの謎と真実』
最新コメント
オススメ記事(外部サイト)
お問い合わせ
オカルト速報へのお問い合わせはこちらのフォームからお願い致します。
スポンサードリンク
記事検索
タグ絞り込み検索
アーカイブ
RSS & ソーシャルリンク

オカルト速報RSS オカルト速報Twitter

スポンサードリンク