【体験談】新宿西口地下に髪の毛があった頃。その日、腕、髪、足と何かが近づきついに家にまで来た。
ずっと前の話。
電車に乗って外を見ていたら、窓の外に腕が見えた。
一瞬のことで「えっ」と思ったが、腕だったと思う。白いダボっとした袖の服を着た腕が、何かを掬うような窓を擦るような動作で、サッと上から伸びてまた上へ戻っていった。腕だけだった。
新宿駅で降り、西口方面の地下を歩いて地下鉄の方へ向かった。
「みえる」人はピンとくると思うが、この通路は一時期、2010年前後かな、いつも天井の亀裂から髪の毛が垂れていた。亀裂だったか、天井パネルの隙間からだったか正確には覚えてない。その髪の毛は見える人は見え、見えない人には見えない物…ま、霊的なというか。地下とは言えそこの通路数メートルだけ空気が重く、見える俺からしたらみんなが普通に歩いているのが不思議なくらい、息がしにくかった。
年月を経ていつの間にか髪の毛はなくなって淀んだ空気もなくなり通路自体も明るくなったのだが、その時はまだ淀んでて髪の毛が出ている時だったから、あー今日もあるなと髪の毛を視界の隅に捉えつつ通り過ぎた。
俺が電車で腕を見た時そんなに大きく感情が動かなかったのは、こんな風に腕くらいなら気に留めない位、同じようなものを見ていたからだった。
地下鉄も下車し、最寄駅から住んでるアパートまで徒歩15分の道のり。チェーン店やキャバクラのある駅前から、だんだん暗くなる道を歩く。和菓子屋、コンビニ、個人経営の飯屋やカフェを通り過ぎる。治安の悪い町ではないから綺麗だったけど、俺はこの道に野生のアライグマだかハクビシンを見たことがあるw
ま、そのくらい自然が残る地域であり古い住宅街でもあったが、その日の帰り道に俺は、足を見た。
足だ、と思ったそれは靴だった。
しかし変だ。
片手だけの手袋や、赤ん坊用の小さな靴が落ちているのは見かける。でも両足そろったハイカットスニーカーは普通落ちていない。ハイカットで足首部分が見えないから、十分足のように見える。
その時俺は、怖いと思った。手や髪と違って、靴は歩くイメージが浮かぶからだ。
足だと思ったら靴だった物は結果的にはやっぱり足で、歩き出して俺に着いてきた。振り向くと止まるとか、気づくと常に視界の先にいるとかではなく、俺の目の前で堂々と歩いた。
友達に電話して一晩泊めてもらう…という怪談の定石はできない。俺達はそんなに外泊しないから電話やメール一本で泊めてくれる友達はそうそういないし、心当たりがいても、「靴が追いかけてくるから泊めて」とはわりとマジで言えねぇ、と思った。
だからといって口実を考えるのはまどろっこしいというか…めんどくさかった。
「ちょっと泊めてw」と手ぶらで行って、どうしたんだよと話したり酒盛りしたりするのは怠い。それなら早く帰って寝て朝になって、なかったことにしたい。怖い時はあまり頭が働かない、早く無事に過ぎ去れ、早く日常に戻れとばかり思うのだ。
今思えば、正常性バイアスってやつだと思う。当時はそんな言葉知らんかったが感覚としては持っていた。
「いや気のせいでしょ」「この状況を動画撮って友に送れば…ムリムリ怖いしw」「つーか、ついてきてるだけだし大丈夫じゃね?」「靴ついてきてるから何?霊に殺された人いないよね?」「死なないでしょ普通」
といった具合に、ずっと「そんなに大変な場面ではない」と思い込んでいた。
靴には追いつかれず帰宅できた。家がバレるのはマズイ、とかは思わなかった。だって歩くとはいえ、靴だし。
しかし家での違和感にはすぐに気づいた。
俺が音を発すると、その間ずっと何かの声が聞こえた。部屋には自分しかいない。初めは隣人が宅飲みでもしているのかと思っていたが、変だとすぐにわかった。メリハリがなくずっと同じ調子だし、規則的に同じ「ハハハッ」という女の笑い声が聞こえる。何より、よく聞こうと静かにすると、声が止むのだ。
あとはそもそも、部屋の雰囲気がおかしいというか。そういう感覚はある方だから、人じゃないものだとは一応わかる。
腕、髪、足ときて、声か。だんだん近づいてきている、実体として接触しようとしている。
案の定声はだんだん大きくなって心臓が痛くなったが、しかし静かにしていれば声もしない。ならば簡単だ、と思った。
しかし簡単ではなかった。普段はテレビはつけっぱなしだし音楽もよく聞く。だから習慣でごく自然に音を発生させてはドキリとするのを繰り返した。
音楽も自分のひとりごとも、発すれば同時に「声」が聞こえる。不明瞭で何と言っているかはわからなかったが、聞き取りたくない気もした。まんじりともせず一夜を過ごすしかなかった。
長時間の静けさに耐えきれず、テレビ以外で気を紛らして時間をつぶそう!と思い立ちラジオを点け、声がして、ワァッと叫んでしまった時は、馬鹿すぎて我ながら呆れた。それくらい静かに取り乱していた。胃腸が弱い体質じゃなくて助かった。
静かにしていれば良くて今は夜なんだから寝てしまえば良い。のだがこれがなかなか寝付けない。普段の眠れない時のように「う~~ん」なんて声も出せないし。時計を見ては、10分しか経っておらず絶望した。あちらは強くなっているのか寝返り程度の音でも声を近づけてきた。
これ以来、怪談で「布団被って震えながら一晩越した」とか「朝まで一睡もできず」とか読むと「いやそこが一番きちーだろ!何あっさり一文で終わらせてんだ!」と思うようになったが、確かにこうして文章にしてみると一文以上に伝えられることはないな。実際にはまじできついのに。
目を開けたら目の前に顔があった。
きっと俺は寝てしまっていたのだろう。そしていびきでもかいていたのではないか。だからあちらは眼前まで近づけて、そこでふと目が覚めて目を開けてしまったのだろう。もしくはあちらは俺を観察していたのか、添い寝していたのか…これらは全て、落ち着いた後から考えた事だ。
当時実際に頭をよぎったのは、「顔か…」だった。つまり腕から始まり声ときてもう最後だと思ってたら、顔がまだあったかと。息をのんで声も出せないまま目の前が暗くなって気絶した。でも気絶できて本当に良かった。次に目が覚めたらいなかったから。
いや何でだよ!気絶ってもショックで失神しただけなんだから1,2分だと思うんだよ。あんなに時間かけて追い詰めてすぐ消えたの、助かったけど意味が分からなすぎる。遊ばれてたのかな。目が合ってあちらも驚いたのだろうか。俺はさすがにすぐに外出した。
どんな顔だったのかはモヤがかかったように思い出せないが、一種の防御反応で記憶していないのだろう。なんだが腐ったようなグロテスクな顔だった気がするのだが。
子供の頃、心霊番組のビックリ系演出でトラウマになった顔があった。突如女の顔が大写しになるのだが、その顔も朧げな記憶では爛れたような崩れたような顔で笑っていた。あんなヤバいのよく放送できたよなと思っていたが、大人になってから万全の態勢で見返してみたら、たいして大写しでもないし、女の顔は青白く塗られ白目を剥いているだけだった。
そういう感じで、認知とか記憶はあてにならない。なんなら顔を見たのも夢だったのかもしれん。
その後平穏に暮らす中、家で深酒してテンション上がったまま風呂入って気絶した経験から、あの時酒があれば楽だったなと思うようになり常備するようになった。そうやって備えていると全然生かす機会がなかった。
10年前はいろんなとこで見かけていたいろんなものも、だんだん見なくなり、今はほとんど感じない。
あの頃、成人して仕事もしていたとはいえまだ若く、自分はこんなもんじゃないんじゃないかと焦燥したり、少し未来にすごい出会いが待ってるはずと当てもなく期待したり、ずっとこのまま生きてけるのかどうしようもなく不安になったり、先の事なんてわからなくて、都会の片隅でなんとなくふわふわしていた。そんな自分だったから見えていたものたちだったのかもしれない。
電車に乗って外を見ていたら、窓の外に腕が見えた。
一瞬のことで「えっ」と思ったが、腕だったと思う。白いダボっとした袖の服を着た腕が、何かを掬うような窓を擦るような動作で、サッと上から伸びてまた上へ戻っていった。腕だけだった。
新宿駅で降り、西口方面の地下を歩いて地下鉄の方へ向かった。
「みえる」人はピンとくると思うが、この通路は一時期、2010年前後かな、いつも天井の亀裂から髪の毛が垂れていた。亀裂だったか、天井パネルの隙間からだったか正確には覚えてない。その髪の毛は見える人は見え、見えない人には見えない物…ま、霊的なというか。地下とは言えそこの通路数メートルだけ空気が重く、見える俺からしたらみんなが普通に歩いているのが不思議なくらい、息がしにくかった。
年月を経ていつの間にか髪の毛はなくなって淀んだ空気もなくなり通路自体も明るくなったのだが、その時はまだ淀んでて髪の毛が出ている時だったから、あー今日もあるなと髪の毛を視界の隅に捉えつつ通り過ぎた。
俺が電車で腕を見た時そんなに大きく感情が動かなかったのは、こんな風に腕くらいなら気に留めない位、同じようなものを見ていたからだった。
オカ速おすすめ!
ま、そのくらい自然が残る地域であり古い住宅街でもあったが、その日の帰り道に俺は、足を見た。
足だ、と思ったそれは靴だった。
しかし変だ。
片手だけの手袋や、赤ん坊用の小さな靴が落ちているのは見かける。でも両足そろったハイカットスニーカーは普通落ちていない。ハイカットで足首部分が見えないから、十分足のように見える。
その時俺は、怖いと思った。手や髪と違って、靴は歩くイメージが浮かぶからだ。
足だと思ったら靴だった物は結果的にはやっぱり足で、歩き出して俺に着いてきた。振り向くと止まるとか、気づくと常に視界の先にいるとかではなく、俺の目の前で堂々と歩いた。
友達に電話して一晩泊めてもらう…という怪談の定石はできない。俺達はそんなに外泊しないから電話やメール一本で泊めてくれる友達はそうそういないし、心当たりがいても、「靴が追いかけてくるから泊めて」とはわりとマジで言えねぇ、と思った。
だからといって口実を考えるのはまどろっこしいというか…めんどくさかった。
「ちょっと泊めてw」と手ぶらで行って、どうしたんだよと話したり酒盛りしたりするのは怠い。それなら早く帰って寝て朝になって、なかったことにしたい。怖い時はあまり頭が働かない、早く無事に過ぎ去れ、早く日常に戻れとばかり思うのだ。
今思えば、正常性バイアスってやつだと思う。当時はそんな言葉知らんかったが感覚としては持っていた。
「いや気のせいでしょ」「この状況を動画撮って友に送れば…ムリムリ怖いしw」「つーか、ついてきてるだけだし大丈夫じゃね?」「靴ついてきてるから何?霊に殺された人いないよね?」「死なないでしょ普通」
といった具合に、ずっと「そんなに大変な場面ではない」と思い込んでいた。
靴には追いつかれず帰宅できた。家がバレるのはマズイ、とかは思わなかった。だって歩くとはいえ、靴だし。
しかし家での違和感にはすぐに気づいた。
俺が音を発すると、その間ずっと何かの声が聞こえた。部屋には自分しかいない。初めは隣人が宅飲みでもしているのかと思っていたが、変だとすぐにわかった。メリハリがなくずっと同じ調子だし、規則的に同じ「ハハハッ」という女の笑い声が聞こえる。何より、よく聞こうと静かにすると、声が止むのだ。
あとはそもそも、部屋の雰囲気がおかしいというか。そういう感覚はある方だから、人じゃないものだとは一応わかる。
腕、髪、足ときて、声か。だんだん近づいてきている、実体として接触しようとしている。
案の定声はだんだん大きくなって心臓が痛くなったが、しかし静かにしていれば声もしない。ならば簡単だ、と思った。
しかし簡単ではなかった。普段はテレビはつけっぱなしだし音楽もよく聞く。だから習慣でごく自然に音を発生させてはドキリとするのを繰り返した。
音楽も自分のひとりごとも、発すれば同時に「声」が聞こえる。不明瞭で何と言っているかはわからなかったが、聞き取りたくない気もした。まんじりともせず一夜を過ごすしかなかった。
長時間の静けさに耐えきれず、テレビ以外で気を紛らして時間をつぶそう!と思い立ちラジオを点け、声がして、ワァッと叫んでしまった時は、馬鹿すぎて我ながら呆れた。それくらい静かに取り乱していた。胃腸が弱い体質じゃなくて助かった。
静かにしていれば良くて今は夜なんだから寝てしまえば良い。のだがこれがなかなか寝付けない。普段の眠れない時のように「う~~ん」なんて声も出せないし。時計を見ては、10分しか経っておらず絶望した。あちらは強くなっているのか寝返り程度の音でも声を近づけてきた。
これ以来、怪談で「布団被って震えながら一晩越した」とか「朝まで一睡もできず」とか読むと「いやそこが一番きちーだろ!何あっさり一文で終わらせてんだ!」と思うようになったが、確かにこうして文章にしてみると一文以上に伝えられることはないな。実際にはまじできついのに。
目を開けたら目の前に顔があった。
きっと俺は寝てしまっていたのだろう。そしていびきでもかいていたのではないか。だからあちらは眼前まで近づけて、そこでふと目が覚めて目を開けてしまったのだろう。もしくはあちらは俺を観察していたのか、添い寝していたのか…これらは全て、落ち着いた後から考えた事だ。
当時実際に頭をよぎったのは、「顔か…」だった。つまり腕から始まり声ときてもう最後だと思ってたら、顔がまだあったかと。息をのんで声も出せないまま目の前が暗くなって気絶した。でも気絶できて本当に良かった。次に目が覚めたらいなかったから。
いや何でだよ!気絶ってもショックで失神しただけなんだから1,2分だと思うんだよ。あんなに時間かけて追い詰めてすぐ消えたの、助かったけど意味が分からなすぎる。遊ばれてたのかな。目が合ってあちらも驚いたのだろうか。俺はさすがにすぐに外出した。
どんな顔だったのかはモヤがかかったように思い出せないが、一種の防御反応で記憶していないのだろう。なんだが腐ったようなグロテスクな顔だった気がするのだが。
子供の頃、心霊番組のビックリ系演出でトラウマになった顔があった。突如女の顔が大写しになるのだが、その顔も朧げな記憶では爛れたような崩れたような顔で笑っていた。あんなヤバいのよく放送できたよなと思っていたが、大人になってから万全の態勢で見返してみたら、たいして大写しでもないし、女の顔は青白く塗られ白目を剥いているだけだった。
そういう感じで、認知とか記憶はあてにならない。なんなら顔を見たのも夢だったのかもしれん。
その後平穏に暮らす中、家で深酒してテンション上がったまま風呂入って気絶した経験から、あの時酒があれば楽だったなと思うようになり常備するようになった。そうやって備えていると全然生かす機会がなかった。
10年前はいろんなとこで見かけていたいろんなものも、だんだん見なくなり、今はほとんど感じない。
あの頃、成人して仕事もしていたとはいえまだ若く、自分はこんなもんじゃないんじゃないかと焦燥したり、少し未来にすごい出会いが待ってるはずと当てもなく期待したり、ずっとこのまま生きてけるのかどうしようもなく不安になったり、先の事なんてわからなくて、都会の片隅でなんとなくふわふわしていた。そんな自分だったから見えていたものたちだったのかもしれない。
この記事へのコメント
コメント一覧 (6)
そこで働いていた人が夜勤で、しかも出ると言われていた機械室に入らないといけなかった。
案の定、機械室に入ると空気がおかしい。
空調機の横からあからさまに気配を感じる。
ヤバイ!マジヤバイ!
そう思った時にギリギリで思い出した。
亡くなったのは若い女性で、飛込みで亡くなったが眼球が見つからなかったらしいと。
何を思ったかその人はおもむろにチャックを下ろして、ズボンを脱ぎ始めた。
途端に気配は消えたらしい。
なんでそんな事したか聞いたら、
『振り切れたら興奮しだした』
と何故か照れ始めた。
おっさんがチャックを下ろし始めたら女性の霊も流石にびびったんだろうか?
occlut_soku
がしました
occlut_soku
がしました
これが進むと「私が○○するタイミングで○○される」から「監視されてる!盗聴されてる!」になりがちなんよ。
occlut_soku
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