部屋を徘徊していた人影は、人形を探していた女の子だったのでは?と全員が思った。

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804: 1/4 2011/06/05(日) 13:25:00.58 ID:By72cZiA0

知り合いが仕事の関係で、一ヶ月ほど小田急線沿いの某町に引越しすることになった。
土曜日、友人二人と俺、合わせて三人でそいつの引越しを手伝うことになった。
滞在期間も短く 子規模な引越しだったので、当日の昼過ぎには荷物を運ぶ作業が終わり、
雑然としたその部屋で四人で酒を飲みながら麻雀をやった。
俺は明日早く仕事があったので、先に切り上げることになった。
終電に乗り、20分もすれば自宅に着くような距離であった。

数日後の平日、引越しを手伝った友人の一人、Aがうちに遊びに来た。
二人で飲んでいると、「あいつの家で不思議な体験をした」と友人が言ってきた。

あの日、俺が帰った後、3人で飲んでいたんだが、次の日も休みだから、そのまま雑魚寝したのだが、
引越し主は、次の日も仕事があったので、床に転がっている二人を置いて仕事に行ったのだそうだ。
寝ぼけまなこの状態の友人は、寝たまま細い目で引越し主を見送ったそうだ。
しかし数分後、引越し主が戻ってきた。部屋をぐるぐる回っているので、
忘れ物でもしたのか?と寝ながら様子を見てたのだが、どうも様子がおかしく
物を探しているというよりは、ただ部屋を徘徊していた感じだったそうだ。
しまいには部屋の隅で座ったまま動かないので、どうかしたのか?と思った友人は
重い体を起こして部屋を見渡すと、部屋には二人以外は誰もいなかったそうだ。

あれは、どうも引越し主じゃなかったと思うんだよ、と友人が言うので
金縛りで見る幻覚じゃないのか?不思議なこともあるもんだな、と首を傾げた。
よくある体験話だし、その時は特に気にも留めていなかった。


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805: 2/4 2011/06/05(日) 13:26:04.71 ID:By72cZiA0

週末、引越しに携わった4人で仕事後に飲むことになった。
他愛のない話をしていると、引越しを手伝った一方の友人Bが、
数日前に不思議な体験をした、と言い出した。話を聞くと、Aと体験した内容と同じような体験をしていたようであった。
それを聞いて面白くなったAは、俺も数日前に同じような体験をした、と話をした。
そして、二人の体験談を聞いた引越し主が、さらに奇妙なことを言い出した。
「実は俺も最近、自分の家で寝てたら、誰かが部屋をぐるぐる歩き回るんだよ。
 でも、起きたら誰もいないんだよな。」と、ABと同じようなことを言い出したのである。
ABが、俺たちの話は、おまえの家で起きたことだぞ、と言うと、
もともと怖い話が苦手だった引越し主は、すっかり縮み上がってしまった。

「おい、一緒に来てくれよ。俺、もうあの家に行けないよ」
怖がりの引越し主は、その日 家に帰れるわけもなく、しばらく友人Aの家で泊まることになった。
しかし部屋を放っておくわけにもいかないので、明日に再び四人であの家に行こうということになった。

次の日の昼、引越し先近くの駅で集合し、四人で引っ越し先まで向かった。
一ヶ月の滞在ということだったので、いたって普通の安アパートの一室で、引越し当日こそ何も感じなかった
部屋であったが、三人が同じ奇妙な体験をしたこともあり、何もあるはずがない と思えるわけもなく、
部屋に入ると、薄気味悪く、何か不穏な空気が漂っているように感じた。
しかし部屋に特筆するほど変わった部分があるわけでもなかった。

なあ、この箪笥、Aが運んだの? とBが部屋の片隅にある箪笥を触りながら何気なくAに尋ねた。
Aはその箪笥を運んで来た覚えがなく、そもそもこんな大きいもの、持ってきたっけ?という話になった。
すると引越し主が、そのタンスはもともとあったやつだと、と言った。
もったいないからそのまま使ってくれ、と大家が言ってきたそうだ。
箪笥はいかにも箪笥らしい、普通の箪笥で、中に何か物が入っているわけでもなかった。
やはり見渡す限り部屋には何も奇妙な点はなく、やることもないので、引越し主は、荷物の細かい整理を始めた。


806: 3/4 2011/06/05(日) 13:27:10.51 ID:By72cZiA0

向かいの壁に背をつけるほど離れて箪笥を見ると、ちょうど箪笥の上端、奥の壁に、木の枠のようなものが見えた。
つま先を伸ばし、背伸びして見ると、押入れや窓の枠のような、木でできた枠線がはっきりと見えた。
箪笥の奥に何かあるんじゃないのか?と思った俺は、三人を呼んで、重い箪笥を横にどかした。
箪笥の裏には、木の扉でできた小型の押入れがあった。
なんでこれを隠すように箪笥を設置していたのかと考えると、ゾーっと背筋が寒くなり、
ただ呆然と押入れを眺める四人の間には、嫌な雰囲気が漂った。

居ても立ってもいられなくなった友人の一人が、扉に手をかけた。
おい、と静止しようとしたが、友人は構わず勢いよく扉を開けた。

うわっ!!と友人は叫び声をあげ、何かに驚き尻餅をついた。
どうしたんだと思い押入れの中を見ると、暗い空間の中に、人形がポツンと座っていた。
いたって普通の人形であったが、三人の霊的現象の媒体だと考えるには、十二分に相応しい雰囲気を醸していた。
人形には触りたくもなかったが、しようもないので、とにかく人形を持って不動産屋に事情を聞きに行くことにした。

駅まで歩いて電車に乗り、一駅先の不動産屋に着いた。
事情を話し、人形を見せて尋ねると、不動産屋は心当たりがあったようで、話をしてくれた。
なんでもこの人形は、あの部屋に以前住んでいた母子の家庭の、女の子が持っていたものだったそうだ。
忘れて置いていってしまったんだね、と大家は寂しそうに言った。


807: 4/4 2011/06/05(日) 13:28:20.67 ID:By72cZiA0

その家族は、実はこのアパートに戻ってくる予定だったそうだ。
女の子が重い病気を患ってしまい、長く入院をする必要があり
入院先の大学病院に近い場所へ一時的に住むことにし、引越しをしたそうだ。
しかし数ヵ月後に母親が訪れ、「もう部屋は必要なくなったので・・・」と話をしたそうだ。
大家は深く理由を尋ねなかったが、おそらく女の子の手術に失敗したのでは、と思ったそうだ。
そのしばらく後に、知り合いが入居してきたようであった。

話を聞いた俺たち四人は、部屋を徘徊していた人影は、人形を探していた女の子だったのでは?と全員が思った。
とにかく、その家族に返してあげて下さいと、人形を大家に渡し、帰路についた。

これで霊的現象は無くなるのならいいんだけど、でもあの部屋にはもう戻れないな、と
ポツポツと話をしながら駅に向かっていた中で、長い沈黙が続いたあと、友人が口を開いた。

「あれは女の子じゃなかった。」と奇妙なことを言い出したのである。
はっきりと見たわけではないが、感覚というか、そういうもので何となくわかる。あの人影は女の子じゃなかった
と、なんと3人が共に口を揃えて言うのである。
せっかく大家から事情を聞いて、やっと理解しかけたところだったのに、それだと意味がわからないじゃないかと思った。
じゃあ、女の子じゃなかったとしたら何だったと思うんだよ、と3人に尋ねると、全員が答えた。
「あれは人形だった。」


引用元 : 死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?267


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