電車の中、21時過ぎ、スマホで一生懸命文章を打っていた私は、座席シートの端に座っていた。
シート脇に立つ人と私の間には仕切り板があったが、小さな板だったので立つ人の背中は見えていたし、コートは板を超えてこちらにせり出していた。男の人のようだ。
そのコートに私の腕があたった。カサカサと擦れる音のする生地で、腕が離れてからもカサカサ音が続いていた。何気なくその人を見上げると垂れ下がったフードが見えて、その先に…顔が見えた。まっすぐに私を見下ろしている目が見えた。
瞬間、なんでじっと見てるの、変な人だ、と怖くなった。普通は座席に背を向けるのにこの人はこちらを向き、しかも他人の私を堂々と凝視している。
でも
こちらを向いているなら、背中とフードは見えないはず。
今度は上を見ず横をチラリと見て確認すると、やはり見えるのは背中。ということは、顔だけこちらを向いている?体はあちら向きで?
そんなはずはない。
あれ、人、かな?
ゾワッとして、心臓がバクバクした。
知らない人をぼんやり見てしまうことはあっても、もし相手が見返して来たら、目が合ってしまうか、反射的に目を逸らすかが普通じゃないかと思う。
でも、それの目線は私が見上げようが全く動かなかった。幸い目は合わなかったのだけど。
怖くなったので慌てて周りを見た。
ついさっきまでの私のように、みんなスマホを見ていた。揃いも揃ってみんなスマホを一心に見ていて、こうして見ると異様だ。
車内は各シート1,2席ほど空いていて、立っている人もいる。誰もみなスマホを見ていて他の事には全く関心がないようだ。
みんな人間か?これ異世界の電車?とおかしな事を考えた。
普段、電車内で不快感や違和感のある人が近くにいたら、すぐに席を立って離れる。でもこの時は不気味な違和感が怖くて動けなかった。動いたらバレるような気がした、何だかよくわからないけど。
身を固くし、かすかな衣擦れのカサカサを聞きながら一駅二駅と過ぎていった。
ふと斜め前を見ると、青い服を着た大学生くらいの男の子がこちらを見ていた。
なんだか世界が繋がった気がしたというか、意味不明だけど、普通だ!と思った。
みんなが押し黙ってスマホを見ているマネキンのようだった中、彼だけはスマホを持たず顔がしっかりと見えたから、咄嗟にそう感じたんだと思う。
なんとそこでちょうど乗換駅に着いた。動くのが怖くて少しためらったが、ドアが閉まるギリギリに思い切って飛び降りた(迷惑でごめんなさい)
シート脇の男の前を駆け抜けたが、男は動かなかったし、多分、本当に頭だけ向きが違っていた。
怖くてさっさと去りたかったが、無事にドアが閉まったので安心して、ちょっと戻って窓から車内の様子を覗いた。
私が座っていた辺りを見ると、シート脇の男はおらず、代わりにそこには青い服の男の子が立っていた。
今思えば「あいつがいない!?一緒に降りてきた!?」と焦りそうなものだが、なぜかその時は安堵感しかなく、それよりも
男の子が移動する暇あったか?
あの変な男を青い服の男の子が乗っ取った?
青い服の子は助けてくれた?それとも、私を見てたのも気づいた瞬間駅に着いたのも偶然?
と疑問がいくつも浮かんで不思議な気持ちだった。
これも今気づいたが、何故か勝手にシート脇の男は悪意のある敵だと思ったし男の子は味方のような気分になっていた。 直感というか感覚的にそう思ったが、逆かもしれないしどちらも無害だったのかもしれない。見間違いとか思い込みとかは置いといて。
乗り換えた先の電車はいつも通り普通で、汗をびっしょりかいてしまったので寒かった。
一昨日の夜、都営新宿線下りです。
いつもいるのかな?シート脇の男。
(東京都、女性)
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