
502:名無しのオカルト 2016/04/08(金)00:52:08 ID: ID:axv
『おい、起きろ!!』
自分以外誰もいないはずの部屋に怒号が響く
暗室にゆっくりと馴染んだ瞳孔が捉えたのは、凡そ人ならぬ何かの姿だった
ざんばら頭に仁王のような眼光
耳は尖り、肌着は纏わず素肌に袈裟懸け、大袴
何より異様なのは真っ赤な体色と額と頭の丁度境とでも言うだろうか、所謂生え際の辺りから突き出た一本の角だった
「あなたは?」
人外の者に対する第一声にしては随分頓狂な声掛けである
瞬時に人ではないと判断したにも関わらず、男がこの様な言を採るには勿論理由がある
部屋の主は、よく言えば物怖じせぬ、真実を言うなら浮世離れした落伍者だった
物盗りも復讐者も寄り付くわけがない
世の中と関わらず生きてきたのだ、金の匂いも買った恨みもあるはずがない
億劫な日常を自分で精算するのもまた億劫なので、凪いだ泥沼のように生きているだけ
男は豪胆なのではなく、諦めの極地に居ただけだった
『恐れ知らずではないな。ただの抜作か』
人外もまた瞬時に看破したようである
『まぁいい。儂は枕返しと言う。あやかしの類よ。』
来訪者の身証から、真夜中の会談は始まった
自分以外誰もいないはずの部屋に怒号が響く
暗室にゆっくりと馴染んだ瞳孔が捉えたのは、凡そ人ならぬ何かの姿だった
ざんばら頭に仁王のような眼光
耳は尖り、肌着は纏わず素肌に袈裟懸け、大袴
何より異様なのは真っ赤な体色と額と頭の丁度境とでも言うだろうか、所謂生え際の辺りから突き出た一本の角だった
「あなたは?」
人外の者に対する第一声にしては随分頓狂な声掛けである
瞬時に人ではないと判断したにも関わらず、男がこの様な言を採るには勿論理由がある
部屋の主は、よく言えば物怖じせぬ、真実を言うなら浮世離れした落伍者だった
物盗りも復讐者も寄り付くわけがない
世の中と関わらず生きてきたのだ、金の匂いも買った恨みもあるはずがない
億劫な日常を自分で精算するのもまた億劫なので、凪いだ泥沼のように生きているだけ
男は豪胆なのではなく、諦めの極地に居ただけだった
『恐れ知らずではないな。ただの抜作か』
人外もまた瞬時に看破したようである
『まぁいい。儂は枕返しと言う。あやかしの類よ。』
来訪者の身証から、真夜中の会談は始まった
504:名無しのオカルト 2016/04/08(金)00:52:24 ID: ID:axv
『儂はな、その名の通り褥の中にいる奴らの枕を返すのが仕事よ。儂に枕を返された者は忽ちに悪夢を見る。その苦悶を食ろうて生きておるわけよ』
「はぁ…。確かに夢は見ましたが…」
『そう、それよ。貴様は何故へらへらと笑う。儂とて1日2日食わずとも生きては居れる。居れるがだ、沽券というものがある。枕を返して尚怖じぬもののおれば、他ならぬ儂の名前に傷がつくのよ』
妖怪は得心の行く答えを聞くまで部屋に居座ると言う
男はほとほと困り果てる
この場合困ったのは勿論話す事が億劫であったからだが、眠らせぬと言われれば致し方ない
何年ぶりかに、自分の為に行動する事とした
安眠を買う為に、話し始める
「見ての通り…人と関わることもないですし、親もとっくに死に別れました。今は遺した金で細々と食い、眠る日々です。」
「貴方が僕に見せた夢は、両親に延々と叱責される夢でした。僕は怒鳴られる代わりに閉じこもりを得ていた。その昔を思い出して、つい懐かしかったんです」
「はぁ…。確かに夢は見ましたが…」
『そう、それよ。貴様は何故へらへらと笑う。儂とて1日2日食わずとも生きては居れる。居れるがだ、沽券というものがある。枕を返して尚怖じぬもののおれば、他ならぬ儂の名前に傷がつくのよ』
妖怪は得心の行く答えを聞くまで部屋に居座ると言う
男はほとほと困り果てる
この場合困ったのは勿論話す事が億劫であったからだが、眠らせぬと言われれば致し方ない
何年ぶりかに、自分の為に行動する事とした
安眠を買う為に、話し始める
「見ての通り…人と関わることもないですし、親もとっくに死に別れました。今は遺した金で細々と食い、眠る日々です。」
「貴方が僕に見せた夢は、両親に延々と叱責される夢でした。僕は怒鳴られる代わりに閉じこもりを得ていた。その昔を思い出して、つい懐かしかったんです」
507:名無しのオカルト 2016/04/08(金)00:53:31 ID: ID:axv
絶句
今までこんな事があったろうか
この男にとっては現実こそ無味無臭、なんの色気もない絶望そのもので、悪夢の方がより居心地がいいと言うわけだ
枕返しにとってこんな腹立たしい話は無かった
存在意義そのものにとっての天敵、生まれながらにしての仇
許してはならないと心底思った
『貴様…このまま生きて行くつもりか?』
真っ赤な顔を真紅に染めながら枕返しは尋ねる
「はぁ、まぁ、生きれるうちは。そのうち死ぬでしょうから、今日の出来事は事故に遭ったとでも思ってください。貴方が思案する価値もないような人間ですので」
無気力だが馬鹿ではない
枕返しの心のうちを瞬時に理解して、男は返答する
が、それは多分に失敗でもあった
打ち捨てて次の食事に向かえばいいものを、わざわざ矜持の為に叩きおこすようなたちである
『ならん!!!ぜったいにゆるさん!!!』
耳もつんざかんばかりの大声は、先程のそれとは比べ物にならない、激憤の現れだった
そして、怒りに我を忘れた枕返しは口走る
『貴様を幸福にしてやる!!!』
深夜、三時
心底怒り狂った妖怪は、暫く待て!!と怒鳴りつけると一目散に飛び出して、また何者かを連れて戻ってきた
今までこんな事があったろうか
この男にとっては現実こそ無味無臭、なんの色気もない絶望そのもので、悪夢の方がより居心地がいいと言うわけだ
枕返しにとってこんな腹立たしい話は無かった
存在意義そのものにとっての天敵、生まれながらにしての仇
許してはならないと心底思った
『貴様…このまま生きて行くつもりか?』
真っ赤な顔を真紅に染めながら枕返しは尋ねる
「はぁ、まぁ、生きれるうちは。そのうち死ぬでしょうから、今日の出来事は事故に遭ったとでも思ってください。貴方が思案する価値もないような人間ですので」
無気力だが馬鹿ではない
枕返しの心のうちを瞬時に理解して、男は返答する
が、それは多分に失敗でもあった
打ち捨てて次の食事に向かえばいいものを、わざわざ矜持の為に叩きおこすようなたちである
『ならん!!!ぜったいにゆるさん!!!』
耳もつんざかんばかりの大声は、先程のそれとは比べ物にならない、激憤の現れだった
そして、怒りに我を忘れた枕返しは口走る
『貴様を幸福にしてやる!!!』
深夜、三時
心底怒り狂った妖怪は、暫く待て!!と怒鳴りつけると一目散に飛び出して、また何者かを連れて戻ってきた
508:名無しのオカルト 2016/04/08(金)00:54:33 ID: ID:axv
『こやつは座敷童と言う!!』
かの有名な幸福の使いを引き連れてきた枕返しは、鎮火する事なく唾を飛ばす
『こやつに憑かれれば、貴様はどう足掻いても幸せになる!貴様が幸せを掴み、その無気力を脱した時に、儂はまた来る!絶対に貴様の苦しみを食ってやる!いいか、死ぬ事は罷りならんからな!』
先述した通り、男には別段生への執着は無い
然りとて勿論、死ぬ理由もない
現世の幸福は生者のものならば、男は座敷童によって生きる事の確約を得た事になる
それならば、と男は生きていくわけだ
「はぁ、わかりました。」
とあくまでらしい返事をした辺りで、台所から火の手があがった
必ず幸福になるはずの男の部屋は、見る見る炎に包まれる
ニコニコと微笑む座敷童と、がははと笑う枕返し
奇妙に輪をかけた奇妙に、男もさすがに疑問符をつける
「必ず、幸せになるはずでは?」
枕返しは答える
『これが幸せの始まりよ!!ざまぁみさらせ、貴様は先々、儂に枕を返されて泣き喚くのよ!首を洗って待っていろ!』
なんとも豪快な笑い声を残して枕返しは炎の中に消えて行った
かの有名な幸福の使いを引き連れてきた枕返しは、鎮火する事なく唾を飛ばす
『こやつに憑かれれば、貴様はどう足掻いても幸せになる!貴様が幸せを掴み、その無気力を脱した時に、儂はまた来る!絶対に貴様の苦しみを食ってやる!いいか、死ぬ事は罷りならんからな!』
先述した通り、男には別段生への執着は無い
然りとて勿論、死ぬ理由もない
現世の幸福は生者のものならば、男は座敷童によって生きる事の確約を得た事になる
それならば、と男は生きていくわけだ
「はぁ、わかりました。」
とあくまでらしい返事をした辺りで、台所から火の手があがった
必ず幸福になるはずの男の部屋は、見る見る炎に包まれる
ニコニコと微笑む座敷童と、がははと笑う枕返し
奇妙に輪をかけた奇妙に、男もさすがに疑問符をつける
「必ず、幸せになるはずでは?」
枕返しは答える
『これが幸せの始まりよ!!ざまぁみさらせ、貴様は先々、儂に枕を返されて泣き喚くのよ!首を洗って待っていろ!』
なんとも豪快な笑い声を残して枕返しは炎の中に消えて行った
510:名無しのオカルト 2016/04/08(金)00:55:22 ID: ID:axv
顛末を急いで語ろう
つまるところ男の不幸は、なまじ家がある事だったのだ
誰とも関われぬ密室は、魂の牢獄に等しかった
事実、焼け出された後の男の成功譚は目をみはるものだった
人情味溢れる警官が渡りをつけた福祉行政の役人は、熱血を体現したような世話焼きだった
男に職を宛てがった後も、ちょくちょく様子を見に来るような
勤め先の工場主は、男の傍らに立つ座敷童のような、温かい笑顔を崩さぬ人だった
技術一徹の好々爺とその伴侶は、時折亡くした息子が帰って来たようだと涙ぐむ以外は、常にニコニコと笑って男の成長を見守った
やがて人との関わりの中で、男が喜怒哀楽を取り戻した頃
昼休みにワゴンで弁当を売りに来る娘に、男は恋をした
今日はこれが上手くできましたよ、明日のおかずは何がいいですか?と聞く娘に、精一杯の勇気で、
出来たてを食べたい、うちの台所で作ってくれないか
と尋ねたら、枕返しのように真っ赤な顔ではいと応えた
枕返しもどき2人は、こうして恋路を共にした
つまるところ男の不幸は、なまじ家がある事だったのだ
誰とも関われぬ密室は、魂の牢獄に等しかった
事実、焼け出された後の男の成功譚は目をみはるものだった
人情味溢れる警官が渡りをつけた福祉行政の役人は、熱血を体現したような世話焼きだった
男に職を宛てがった後も、ちょくちょく様子を見に来るような
勤め先の工場主は、男の傍らに立つ座敷童のような、温かい笑顔を崩さぬ人だった
技術一徹の好々爺とその伴侶は、時折亡くした息子が帰って来たようだと涙ぐむ以外は、常にニコニコと笑って男の成長を見守った
やがて人との関わりの中で、男が喜怒哀楽を取り戻した頃
昼休みにワゴンで弁当を売りに来る娘に、男は恋をした
今日はこれが上手くできましたよ、明日のおかずは何がいいですか?と聞く娘に、精一杯の勇気で、
出来たてを食べたい、うちの台所で作ってくれないか
と尋ねたら、枕返しのように真っ赤な顔ではいと応えた
枕返しもどき2人は、こうして恋路を共にした
511:名無しのオカルト 2016/04/08(金)00:55:56 ID: ID:axv
やがてこじんまりとした祝言を挙げた頃、大企業から声がかかった
老人の技術を継いだ若い職人と、一緒に素晴らしいものをつくりたいと
有名な海外のメディアが男の技術を取材したいと申し入れて来た頃、老夫婦は工場を譲りたいと男に告げた
もうすぐ産まれる「孫」と遊んで、余生を過ごしたい、と
あの夜会から十余年、満帆に幸せの烈風を受け続け、男は歩んできた
新しく建てた自分の城に、老夫婦を呼んで共に暮らした
日中は数十の従業員に忙しく指示を出し、家に帰れば笑顔の「親」が2人揃って、料理自慢の妻の夕餉を食卓に並べている
最近つかまり立ちした娘は聡く、おかえりなさいをはっきり言う
これあの頃の自分が最早思い出せないほど、男は幸福の只中にいた
晩酌を終え、先に寝付いた妻のそばに息を殺して潜り込む
腹を出して大の字を決め込む娘を、起こさないように
幸せな一日が、今日も終わった…
深夜、男は妻に揺り起こされた
不安そうに覗き込む妻が言うには、とても魘されてたようだ
砕けるほど歯をきしませて、涙を流し呻いていたと
目を開けて不安そうな妻を見たとき、男は悟った
枕元では座敷童が、こんなにおかしい事は無いという風に笑っていた
「悪夢を見れるって、幸せだな」
と男が妻に言うと、怪訝な表情を更に曇らせてどうしたの?と訪ねてくる
「なんでもないよ。それより枕元に置き手紙をしたいんだ。ペンと紙はどこだったかな?…ん?食事をね、しに来る奴がいてね。感謝を書いて置いておくのさ。まぁそいつはそんな手紙を見たら怒るだろうがね」
老人の技術を継いだ若い職人と、一緒に素晴らしいものをつくりたいと
有名な海外のメディアが男の技術を取材したいと申し入れて来た頃、老夫婦は工場を譲りたいと男に告げた
もうすぐ産まれる「孫」と遊んで、余生を過ごしたい、と
あの夜会から十余年、満帆に幸せの烈風を受け続け、男は歩んできた
新しく建てた自分の城に、老夫婦を呼んで共に暮らした
日中は数十の従業員に忙しく指示を出し、家に帰れば笑顔の「親」が2人揃って、料理自慢の妻の夕餉を食卓に並べている
最近つかまり立ちした娘は聡く、おかえりなさいをはっきり言う
これあの頃の自分が最早思い出せないほど、男は幸福の只中にいた
晩酌を終え、先に寝付いた妻のそばに息を殺して潜り込む
腹を出して大の字を決め込む娘を、起こさないように
幸せな一日が、今日も終わった…
深夜、男は妻に揺り起こされた
不安そうに覗き込む妻が言うには、とても魘されてたようだ
砕けるほど歯をきしませて、涙を流し呻いていたと
目を開けて不安そうな妻を見たとき、男は悟った
枕元では座敷童が、こんなにおかしい事は無いという風に笑っていた
「悪夢を見れるって、幸せだな」
と男が妻に言うと、怪訝な表情を更に曇らせてどうしたの?と訪ねてくる
「なんでもないよ。それより枕元に置き手紙をしたいんだ。ペンと紙はどこだったかな?…ん?食事をね、しに来る奴がいてね。感謝を書いて置いておくのさ。まぁそいつはそんな手紙を見たら怒るだろうがね」
引用元:おんj夜の怖い話部
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